Chageの細道2009

2009年5月23日 @武蔵村山市民会館さくらホール
文:兼田達矢 写真:西澤祐介

「本当に奥のほうまで来てくれる」
実感です。ツアー・スタート前にChageのブログから出された「五・七・五で川柳をつくりなさい」という宿題に応えて寄せられた作品のひとつ。おそらくは地元の人の手によるものだろう。この日のライブで披露されると、客席から大きな拍手。みんな同じ気持ちなんだ。だって、東京都内で立派な市民会館まであるのに「武蔵村山」という駅はないという、謎のバミューダ海域みたいな場所なんだから。地元じゃないけど、この記念すべきツアーの初日を見届けようと各地から集まった人たちからすれば、「本当に奥のほうまで訪ねるね」てな感じか。でも、そんな「地の利」(?)のおかげで、この日の会場に集まった人たちには、集まった時点ですでに強い連帯感が生まれていた。そして、Chageらしいあけっぴろげな調子でこの場所にたどり着くことの困難が語られて、みんなが大笑いするなかで、改めて“Chageの歌を共有するためにここまで来たんだよな”という思いが確認されることになった。

「Chageの細道2009」というツアー・タイトルは、言うまでもなく松尾芭蕉の「奥の細道」に倣ったわけだけれど、おそらくは“どんなに細い道しか通っていないようなところでも、僕の歌を届けに行きますよ”という彼自身の思いの表れでもあるだろう。この3月に彼がリリースした最新アルバム『Many Happy Returns』で表現された、極力装飾を排したシンプルで風通しのいい“歌”は、確かにできるだけ近い距離で、相手の顔を見ながら伝えることがお似合いだ。もちろん、そのスタイルはごまかしがきかないからリスクも小さくないし、増してC&Aでの大きな成功を手にした彼にとってみれば、ずいぶんと効率の悪いやり方だと言えるかもしれない。それでも、彼はこのやり方でやりたかったんだろうし、もっと言えば“今の自分にはこのやり方でやることが必要なんだ”と彼は考えたんだろうというふうにも思う。デビューから30年というキャリアを経て、今Chageという音楽家はどういう存在で、どういうことができるのかということを、他でもない彼自身が確認する必要があっただろうと思うからだ。

だからこそ、この日のステージは彼自身にとってもなかなかに緊張感の高いステージだったろう。最初にかなりきちんとしたジャケットを着て登場したのは、そんな気持ちが少し反映されていたんじゃないだろうか。でも、彼くらいライブの現場を経験していれば、その場にいちばん大切なものはすぐに感知する。3曲を演奏し終えたところで、「無理!」と笑いながら、そのジャケットを脱いでスタッフに渡したところから、本当の意味で「Chageの細道」が始まったように思う。つまり、このツアーは気負うこともなく、かと言って緩むこともなく、十分にキャリアを積んだ、十分な表現力を持ったChageというシンガーの等身大の“歌”を伝える旅であり、その第一歩は穏やかにゆっくりと踏み出されるべきものだったのだ。

そして、そのライブではとにかく“歌”が近い。物理的な距離が近いというだけではなくて、Chageの存在をとても近くに感じられるということ。アルバム『Many Happy Returns』で表現されたリラックスした空気が見事に表現されて、まるでリビング・ルームで会話しているような感覚にとらわれるのだ。冒頭で紹介した投稿川柳を披露するコーナーや公演地ごとに日替わりでバンド名を決定するコーナーなどファン参加型で楽しめる時間を設け、寛いだ雰囲気を作り出す演出もしっかり効果をあげているのだけれど、何よりもChage自身が自分のとても大切なものをオーディエンスと直接交換しようとしている心持ちが確かに伝わってくるから、こちらも自然とオープン・マインドになる。最後までゆったりと座席に腰掛けて演奏を楽しんでいたオーディエンスが皆、アンコールが終わると当然のように立ち上がって大きな拍手を送ったシーンがこの日のライブの温度感を象徴していた。

柔らかな温もりを持ったそのスタンディング・オベーションに背中を押されて確かに第一歩を踏み出した「Chageの細道2009」は、じつに11月まで続く。「本当に奥のほうまで」巡るこの旅には、多分いろいろな“事件”が待ち構えているのだろうだけれど、それでもこの“歌”があれば大丈夫という手応えを本人がこの日つかんだことだけは間違いないようだ。

「五月晴れ 武蔵で始まる 我が旅路」by Chage

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